印欧語の語尾は同一の形態素の中に文法的には全く性質の異なったいくつもの機能が混在
松本克己『世界言語への視座』を読む(その3) 印欧語における統語構造の変化の原因 - 言問い亭12月号 (2011年)
従来あまり注意されなかったことであるが,印欧語の格組織(あるいは 「格変化」 declension」)は,他の諸言語にはほとんど例のないきわめて 特異な性格を持っている.というのは,いわゆる「格語尾」が単に「格」 の機能を標示するだけでなく同時に,「数」(および「性」)の機能をも 標示するという事実である.つまり同一の形態素の中に文法的には全く性 質の異なったいくつもの機能が混在(または融合)しているわけで,これ は言語の機能的観点から見て決して好ましい特性とは言えない.印欧語に おいて「性」の機能が格変化の中に組み込まれたのはそれほど古い時期と は思われないが,「数」と「格」との融合は祖語の相当古い時期に遡ると 思われる.古代インド語に見るような印欧語の格組織がどのようなプロセ スによって成立したかという問題はしばらく措き,ともかく「格語尾」の 持つこのような”多義性”(polyfunctionality)は,印欧語の格組織にとっ て致命的な弱点であったと言わなければならない. (柴田注:ズームアウト/イン型精神構造パラメータという私の仮説から 見ると、非常に古い時代には,全ての印欧諸語はズームアウト型であり、 かつOV型言語であったために、言語分野では常にズーム・パラメータと それに矛盾する主要部(支配方向)パラメータとの激しい主導権争いがあ り、松本氏がここで解説するような弱点を抱えていた言語構造の側に勝ち 目はなく、ヨーロッパ諸言語はズーム・アウト型パラメータに屈服して主 要部前置(右向き支配)の方向へ全面的に「転向」したのです.しかし, インド諸語はいったん格組織が崩壊したものの、個別モジュールである言 語のパラメータが「奮起」して,全面的で自主的な機構改革を断行するこ とにより,言語構造の論理的整合性と透明化を達成したために、ズーム・ パラメータの圧力を跳ね返して、言語分野における自己の支配権を(再) 確保したのだと考えます。)
そんなこと気にしたことなかった…。すごい。