ニッパー、ペンチ

ニッパー、ペンチ

閑話傍題(アネクドートの小部屋): ロシア語珍問奇問 第3回

ペンチという単語をロシア語にしようと思うと、私の持っている和露辞典 (Лаврентьев, Русский язык, 1984)ではщипцыとかкусачкиと書いてある。ペンチはどなたも御存じのように、ものをつかむとか、つぶすとか、針金の切断などが出来る工具(日本工業用語辞典では、つかみとたて刃のニッパ兼用とある)である。ちなみにニッパは針金などを切断する工具である。щипцыというのはつかむ工具であり、кусачки (острогубцыともいう)というのは針金などを切断する工具で、厳密に言えばエンドニッパのことである。何を言いたいかというと、このようにどこの家庭でもあるような工具一つでも露訳するのが難しいという事である。それではペンチにあたるロシア語はないのだろうか?私のこれまでの経験では пассатижиが一番近い。これはплоскогубцы(プライヤーまたは角口プライヤーと訳し、先の平べったい工具でペンチからニッパの機能を除いたもの), кусачки, отвёртка(ドライバー)などを組み合わせたщипцыと技術辞典 (Политехнический словарь, Ишлинский, Советская энциклопедия, 1980)にある。ドライバーといってもпассатижиの握りの片方の端がマイナスドライバーになっており、もう片方がプラスになっているというすぐれものである。ただこれまでの経験からロシア人にペンチという意味でпассатижиといっても、技術者なら意味は分かるが、よほど工具の専門の話でない限り、針金などを切断しないならплоскогубцыとか、круглогубцы(丸口プライヤー、先が丸くなったペンチからニッパ機能を除いたもの)とか、切断するならкусачкиという風に言いかえるのが普通で、пассатижиとはまず言わない。だから和露辞典の編者も書きようがなかったのだと思う。これで場面場面で要求される単語の正確さというのは違うということがお分かりになると思う。閑話傍題(アネクドートの小部屋): ロシア語珍問奇問 第3回

ややこしい。

2010-03-14

藤沼貴『ロシア語ハンドブック』

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61.   ロシア語ハンドブック、藤沼貴、東洋書店、2007年

 ロシア語の勉強をずっと長く続けていくのだと考えている人には必携の書。第1部表現・文法編は初級文法の復習には最適であり、指示代名詞の説明には感心した。ただ体の用法が説明の部分が2ページというのは少なすぎる。小数点のところは「ロシアでは小数点にはカンマを用いる」と一言書いたほうが誤解がないと思う。「~するつもりである」という構文でхотетьをその意味で使うとあるのはおかしい。日本語だって、「~したくはないが、~するつもりである」という文例もある。意向の意味であれば、собиратьсяをメインにすべきではないかと思う。第2部のテーマ別語彙項目編は若干間違いもある。特に料理や食品に多い。編者が一人ではやむをえないと思う。一部紹介すると(カッコ内は当方が訂正したもの)は、浴衣(халат)、アルミサッシ(алюминиевый переплёт)、タイル(плитка)、サヤインゲン(стручковый фасоль)、サヤエンドウ(стручковый горох)、チェリー(черемухаではなくчерешня)、укропはディルまたはヒメウイキョウで、ウイキョウはфенхель、калинаはガマズミ、малинаはラズベリー、黒ビールの訳がない(тёмное пивоでсветлое пивоは普通のビールであり、ピルゼンビールだけとは限らない)、зубровка(зубрの好む草の茎が入っている)は薬草酒の一種だが総称ではない。薬草酒は настойка、果実酒はналивкаであり、конфетыはキャンディーではなくチョコ菓子、печеньеはビスケット、картошкаはチョコ風味のスポンジケーキ、пастилаはフルーツ羹というよりはやわらかいフルーツ落雁、院長はглавврач(директор больницыとは言わない)、「点滴する」はставить капельницуという。死亡記事はнекрологであろう。食物連鎖(пищевая цепь, цепь питания)、テンプラの訳がおかしい。в кляре(ころものついた)と入れないと意味が分からない。弁当はупакованный завтракではなくпереносной обедであろう。винегретはビーツの入ったポテトサラダであり、похлёбкаは具沢山スープであり、солянкаはレモン、オリーブ、酢漬けのキュウリの入ったスープであり、飛行機の車輪(脚部)はшассиであり、腕立て伏せはотжиманиеである。手風琴と記載あるが、普通は日本語ではアコーデオンというのではないか?またロシア語の改行規則が守られていないところがあるし、30か所近く誤植があるのは残念だ。次の版で訂正されることを願う。

ロシア人の日本語ガイド向けのテキスト

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113. *Из России с любовью(ロシアより愛をこめて), Попова, Япония Сегодня, 2005

 ロシア人の日本語ガイド向けのテキストだが、日本人のロシア語ガイドにも非常に役立つ。言葉と言うのは双方向のもので、ロシアのこと(ロシアの常識)を知らねば、ロシア人観光客の望むようなガイドはできないという意味で、またロシアのことも客観的によいところ、悪いところも紹介している画期的な参考書である。特に社会の底辺の人々について説明したところは非常によくまとまっていて興味深い。用語が単語別ではなく、フレーズあるいは文で、しかも露和で示されているのが非常に良く、ガイドや通訳にとっても使い勝手が良い。特にロシア正教の歴史や儀式の説明(特に葬儀)は分かりやすくてとても参考になる。ただ若干和訳が直訳的なところや間違いがある。例えばダイモンドファンドの用語集のいくつかの和訳などである。細かいことを言えば90ページの日本の震度の説明で7-балльная системаとあるが、これでは誤解を招く。確かに震度は0~7までだが、5と6に強弱があり、全部で10段階である。時事ロシア語に関心のある人には必携。題名だけ見ると007みたいな感じがするので、副題に「ロシア案内」などと入れればもっと売れるだろうと思う。

28.НО-05-62-514 ПОПОВА И.С. ИЗ РОССИИ С ЛЮБОВЬЮ. изд-во ЯПОНИЯ СЕГОДНЯ 2005 г. 448 стр. ISBN:5864791075 цена 61.40 Автор делает попытку обобщить свой многолетний опыт работы гидом-переводчиком японского языка и предоставить активно работающим и начинающим коллегам информацию, которая позволит отвечать на традиционные вопросы иностранных туристов и углубит контакт с туристической группой. К каждой из тем бесед прилагается короткий русско-японский словарь.http://www.mkniga.ru/prices/AH-2005-86.RZD

『みんなの日本語』

言葉の意味を知っているというのはどういうことだろう

言葉の意味を知っているというのはどういうことだろう

ムバーラク大統領の手術成功 - ろば日誌 アラビア語とエジプトとニュース

الحوصلة المراريةはgall bladderで、胆嚢の意。アラビア語も英語も知りませんでした。もう一生使わない気がします(笑)。というか、日本語でも言葉は知っていても、具体的なことはほとんど知りません。

 こういう言葉に出会うと、言葉の意味を知っているというのはどういうことだろう、と考えます。ウィトゲンシュタインを待つまでもなく(笑)、当該言語の内部で運用できれば良いのですが、その運用というのは、意味の詳細や正しい情報を知っていることではなく、その単語に慣れ、最低限の連合関係(身体の一部である等)を把握し、「正しい間違え方」ができることなんですよね。面白い。

菊の露

菊の露

手事がない曲。なかなかしぶい。

歌詞・解説

本調子

鳥の声 鐘の音さへ身にしみて 思ひ出すほど涙が先へ 落ちて流るる妹背の川を と渡る船の楫だにたえて 甲斐もなき世と恨みて過ぐる

二上

思はじな 逢ふは別れといえども愚痴に 庭の小菊のその名に愛でて 昼は眺めて暮しもしょうが 夜々ごとに置く露の 露の命のつれなや憎や 今はこの身に秋の風

前半の最後の2節は、「楫」と「甲斐」が「かい」でかかってて、「と渡る」の「と」は副詞で「かく」と対にして使い、「あのように〜このように」という意味なので、「甲斐もなき」の前に「かく」が省略されてるのかな、たぶん。

後半の中程の、昼と夜が対になってる所は、「昼は眺め」の「眺め」は「長雨」にかけてあって、夜の方の「露」と対比になってる。

「楫」と「甲斐」、「昼」と「夜」のどちらの対比も、前の「楫」と「昼」の方が外景を描写し、後の「甲斐」と「夜」の方で心情を重ねている。

ついでに

全然関係ないけど泡盛

交通手段

交通手段

閑話傍題(アネクドートの小部屋): 新帯研 第84回

交通手段での移動を示すには交通手段を造格にするかна + 前置格にすると習う。ほぼ同じ意味だが強いて違いを言えば造格では使えない名詞もあるということである。「自動車で行く」をехать на машинеとは言うがехать машинойとは言わない。しかし絶対にそうだろうか?革命前の本を読むと поехать машинойという表現も見かけるが、これは意味が違うことに気づいた。この場合は当時の口語で、поехать по чугунке = поехать по машине となり、現代風に言えばпоехать поездом (=паровозом = по железке = на паровозе)ということで「汽車で行く」という意味だと最近読んだ。ただ革命前の本ではв автомобилеがよく使われている。

なんか不思議。

狩猟用語

狩猟用語

閑話傍題(アネクドートの小部屋): 新帯研 第82回

トルストイに関する本を読んでいたら、ロシア語では狩猟用語では尻尾хвосты の呼び名が動物によって違うとあり、具体的な名称が挙げられていたので参考のため書いておく。(у лисицы - труба, у волка - полено, у зайца - цветок, у борзой - правило, у гончей - гон, у сеттера - перо, у пойнтера - прут, у дворняжки - хвост)。